担当しているトレーナー達が、訓練や日常の中で気づいたことを綴っていきます。
私たち未来塾のトレーナーが中津燎子から訓練を受けているときに度々聞かされていたことの一つに次のようなものがあります。「英語修得において、発音の仕上がりは50%でもよいが、文化については200%の理解が必要である。」ここで言う文化というのは、もちろん建造物や美術品といったものではなく、言語文化、すなはち、英語における論理性、世界(もの)のとらえ方、その提示のし方、といったような意味です。どんなに発音が良くても、内容 (意見) がなければ、そしてそれをわかりやすく伝えられなければ意味がない、というわけです。そして、それを学ぶために中津が私たちに課したのは、ディベートでした。
ディベートというのは、英語の言語文化におけるエッセンスが凝縮した形でゲーム形式となったものです。すなはち、一つの論題に対して「肯定側」「否定側」の立場に分かれて、議論を組み立て、必要な証拠で裏付けし、聴衆の前で議論して、どちらがより説得性があるかを競うものです。各スピーチには双方に同じ時間が与えられ、しかも短い時間です。その中で、言いたいことを要領よく整理してわかりやすく音声で伝えなくてはなりません。
多くの日本人にとってなじみのないディベートにいきなり取り組むことはハードルが高いため、当時の上級生 (1988~97年頃、未来塾は初級、中級に続いて上級コースもありました) が開発したプログラムが、現在の新生未来塾でも採用している「ディベート導入訓練」です。なお、この訓練は日本語で行っています。
実際のディベートの試合とそれに必要な立論のレッスンは中級で行いますが、初級ではその基礎となるスキルを学ぶために、「Yes/No game」、「ニューズレポート」、「賛成か反対か」のカリキュラムを用意しています。
初級第9回目のレッスンでは、トレーニーのみなさんに「ニューズレポート」に取り組んでいただきました。これは、それぞれ個別に配られる新聞や雑誌の記事についての概要と意見を15分間でまとめ、3分間で口頭発表していただく、というものです。もう少しくだいて言うと、その記事が要するに何を言っているのかをまとめ、自分の意見を形成してそれを聞き手にわかりやすく伝えることです。しかも短時間で準備し、聴衆に届く明快な音声で発表することが求められます。「概要」と「意見」を明確に分けることもポイントです。
発表の際に陥りがちな傾向として、記事に引きずられたり、ただ記事の一部を読み上げたりして「概要」に時間を取られて所定時間内に「意見」を言うことができなかったり、「概要」と「意見」が混ざっていて、聞き手にとって理解しづらくなったりすることがあります。また、そもそも「意見」が形成できない場合もあります。けれども、今回のトレーニーのみなさんは、記事の内容を程よい長さにまとめ、意見も形成されていてわかりやすく伝えることができていました。
<イノモン>
未来塾のレッスンで目指すのは、「スピーチ音」の音づくりです。すなわち、publicな場面で、英語で主張をするときに通用する明快な発音の修得です。初級第8回目から最終回までは、このスピーチのレッスンとなります。題材は、チャーリー・チャプリンが脚本・制作・監督・主演をした1940年のアメリカ映画 ”The Great Dictator” の中の”The Concluding Speech of the Great Dictator”という有名なスピーチです。古いですが、内容が「自由」という普遍的なテーマを扱っているため、発表者自身の主張も込めやすい、ということでずっとレッスンで使用しています。
レッスンでは、導入として「スピーチとは何か」について簡単に説明し、留意点をトレーニーと確認します。興味深いのは、10項目の留意点に書かれていることは、言葉だけで読めば、それほど難しいことではなく、実際一人ずつ順番に読み上げていただいても、特に質問が出るような内容ではありません。けれども、文字面が「わかった」ということだけでは、本当の理解とは言えないのです。書かれている内容に当てはまる体験があること、あるいは、書かれた内容がその通りと感じ、それに応じて自分が変わる、ということがなければ、本当に「理解した」ということにはならないのです。
例えば、留意点の中に「語感やストレスは、人の真似ではなく、すべて自分の判断でつくる。その時、無意識のうちに自分の中の日本語感覚で抑揚を作るので、ここでハッキリとこれまでの訓練で蓄積し、工夫したはずのリズム、母音、子音の分量の割合を念頭において、音をつくりつないでゆく。無意識に声を出せば、必ず母国語になってしまうことを忘れない。」というものがあります。読むだけならば、これまで重ねてきた訓練からして、「ふむふむ」と流し読み、あるいは聞き流すところです。ところが、実際に訓練にはいると、ほとんどすべてのトレーニーのみなさんに、まさにこの通りの症状が出てくるのです。そう、「無意識」にです。文字として英語の文章を見たとたんに、慣れ親しんだ日本語の音、リズム、呼吸で英語を読んでしまう方がほとんどです。これまで一生懸命つくってきた音はどこへ行ったのでしょう?
とはいえ、スピーチのレッスンの第1回目としては、トレーナーとしては想定内のトレーニーの方々の出来ばえでした。これからあと4回のレッスンを通じて、みなさんが日本語のリズムから英語のリズムに移行できるよう、「変われるよう」ともに訓練をしていきます。トレーニー・トレーナー双方に困難を伴う取り組みではありますが、最終回にどのような変化がみられるのか楽しみでもあります。
<イノモン>
未来塾初級コース第7回目では、最初に音声表現-Iの発表に向けてリハーサルを行い、そのあと、トレーニーの皆さんに発表をしていただきました。訓練中は、トレーナーがさまざまなコメントをだしてきましたので、多少混乱しながらも、いざ本番となると度胸が据わって練習の時よりも堂々と発表される方もおられますし、逆にいろいろなことを気にしながら緊張してしまい、本来の良さを出すことができない場合もあります。それでも、みなさん、精一杯取り組んできてくださったので、トレーナーとしてもわくわくどきどきしながら、発表をお聞きしました。
誰でも人前で発表となれば緊張するものですが、ともに練習を重ねてきた仲間の前ですから、緊張と言ってもそれほど深刻ではないかもしれません。けれども、お仕事などで同様の状況になれば、さらに緊張も高まります。そのような時にも、十分に相手に届くクリアな英語の音を出せるように、訓練では増幅法で音づくりをしているわけです。
発表の後は、ほっと息をつく間もなく、英語の発想法を学ぶ第1回目として、Yes/No Gameを行いました。
Yes/No Gameというのは、出題者に対してトレーニーが順番にYesまたはNoで答えられる質問をし、出題者が頭の中に想定している「具体的なものや人」を当てる、というものです。ルールは、間を置かずに質問していくこと、同じ質問はしないことです。
このレッスンの目的は、日本人の英語習得において障壁となり得る、コミュニケーション上の問題点に気づく、というものです。たわいもないゲームのように思えますが、実際にやってみると、普段日本語のコミュニケーションでは気づかない自分たちの特徴に気づくことができます。すなわち、質問をするのに時間がかかる。そもそも質問するということ自体が苦手な場合が多く、適切な質問をすることも得意ではありません。質問を考えることに精一杯で、ほかの人の質問をよく聞いていないので、同じ質問をしてしまう。前に出た質問を生かすことができず、答えを詰めるための有効な質問ができない、など。
これらの点は、ひっくり返すと、すべて英語のコミュニケーションで必要なスキルになります。つまり、英語を話す人たちとコミュニケーションする際に、適切な質問ができて、会話をスムーズに発展させていくことは、自分をアピールすることにつながり、相手によい印象を与えて、良好な人間関係の構築を図ることができます。
また、Yes/No Gameでは、常に「必要な目的に至るには、何がわかっていないのか」ということを念頭に置いて質問する必要があるため、情報の有効な整理法の修得にもつながります。レッスンでは1度しか体験ができませんが、レッスン外でもグループで遊びながらやってみることで、効果的な質問づくりのヒントが得られるかもしれません。
<イノモン>
未来塾初級第6回のレッスンでは、音声表現-Iに取り組みます。前回、文章における音のつなぎ方を学びました。それを元に、今回は表現という要素も加える取り組みに入ります。
題材は16編の詩から、トレーニーが選んだ1編です。選択のポイントは、内容に共感できるもの、そして、自分の不得意な音をあまり含まないもの。
テキストに掲載された16編の詩は、Blowing in the Wind やSingなど、どれも歌として聞いたことがあるかもしれないものばかりです。けれども、レッスンで取り組むのは、もちろん歌としてではなく、これまで未来塾でつくり方を学んできた音で発音していきます。
今回のトレーニーのみなさんも、それぞれご自身が共感できる内容の詩を選んで、「音声表現」に取り組んでくださいました。
新しいことを学ぶときに、全体をより小さな部分に分けて、それぞれの部分を順次習得し、最後にそれらの部分を統合する、という手法が取られることはよくあります。そして、この統合というステップは、思っている以上に困難を伴い、それまでに習得したと思ったことさえも、元に戻ってしまうことがよくあります。未来塾の発音訓練でも、文章の音づくりに入ると、この統合という段階になるわけですが、やはり、英語を文章として発音しようとすると、これまでつくってきた音が崩れてしまい、入塾前の慣れ親しんだ“英語もどき”の音で発音してしまいがちになります。中津燎子は、この症状を「先祖返り」と呼んでいました。トレーニーのみなさんにも、ところどころで「先祖返り」の症状がでていました。
大切なのは、音をきちんとつくりながらも、単語転がし1にならないよう、文章として何が主語で述語部分は何なのかが、聞き手にわかるように発音することです。
音づくりだけでも、これほどの困難を伴いますので、課題の「表現」にまで意識を向けることはなかなか大変です。それでも、音声で表現する、ということに、まずは挑戦し、それを楽しんでほしいな、と思っています。
たとえば、happyという単語を発音するときには、その音を聞いた人にその「幸せな」語感が伝わるように工夫するのですが、そもそも音がきちんと届かなければ、内容も届きません。表現の基本も地道な音づくりにあります。
音声表現の取り組みは、この後、スピーチの訓練をとおしてレベルアップしながら続いていきます。
<イノモン>
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注)1 単語転がし:未来塾用語。文章内の単語を意味の塊として音声でつなげるのではなく、丁寧ではあるが、単語一つ一つを等間隔で機械的に、ごろごろとつないでいく発音の仕方。
<参考ブログ>
「音声表現」って何? https://nakatsu-miraijuku.com/diary/84
表現する爽快感をあじわう https://nakatsu-miraijuku.com/diary/1133