二つ分発音していますか?

投稿日:2011年10月27日

10月8日、中級コースが始まりました。前回のブログでも述べましたが、スピーチの課題文として“I Have A Dream”を使って、発音と内容表現の訓練をします。ポイントの一つが地名の発音です。例えば、TennesseeとMississippi。どちらも人種差別が激しいとされた米国南部の州です。カタカナの発音「テネシー」や「ミシシッピー」との違いをはっきりと認識し、自分の舌と唇を使って英語音をつくることが求められます。
 
冒頭の子音の T と M を十分な息で鋭く発音する必要性については、これまでのブログで繰り返し述べてきた通りですので、今回は下線部、すなわち同じ綴りが連続しているところに注目します。Tennesseeではn とs (厳密には語尾の eも)が連続しています。Mississippiの場合には、s が二つずつ2回繰り返され、その後p が二つ連続して出てきます。
 
このような場合、未来塾のレッスンでは訓練として、意識的に二つ分の音を出すように練習します。 nが連続するところではn2つ分の粘りを、s の連続ではsの子音を倍程に強く出すといった具合です。何故そのようなことをするのでしょうか? それは、音を省略しないで発音することがスピーチでは非常に大切だからです。
 
地名ではありませんが、音の省略について説明するため、もう一つ例を出します。それはlittleという単語です。よく日常会話などではlittleの t が削られて(というより、正しくは、舌先を上の歯茎に押し当て鋭い息の破裂で t 音を作れないというべきですが)、二つあるのに0.5個分程度にしか聞こえない場合がよくあります。その結果、親しい友人等を相手にした日常会話ではそれで済んでも、仕事を含めた公式な場では全くそぐわない発音(中津燎子は「パジャマ英語」とか「ネグリジェ英語」と呼んでいます)となってしまいます。
 
TennesseeとMississippiの発音に戻りますが、子音が連続する箇所では文字通り2つ分の音を丁寧につくることで、カタカナ音ではなく公式の場で通用する英語音になります。また、それによってスピーチの受け手である聴衆、とりわけTennesseeやMississippi出身者の琴線に触れる音声をもつくれるのです。
中級コースヘ進んだ受講者6名の方は、後3週間、“I Have A Dream”のレッスンを通して、スピーチに求められるゆるぎない音をつくることの重要性を更に学んでいくはずです。

 
 <ナガちゃん>

なぜ未来塾のスピーチ訓練では原稿の暗記を奨めないか?

投稿日:2011年10月13日

これまで何度も言及してきましたので、ご存知の方も多いかもしれませんが、未来塾では初級後半でDictatorのスピーチを、そして中級では I Have A Dreamのスピーチを課題文として練習します(*)。その際、受講生にスピーチの内容は暗記させません。特に禁止もしていませんが。それはなぜか?わたくし自身この件につき深く考えたことはなかったのですが、先日あるきっかけから、一度よく考察しておくべきと思い、今回ブログで取り上げます。
 
先月終了した初級コースの発表で、ある受講生が課題文を暗記して臨みました。しかも通常は、課題文の前半もしくは後半部分のどちらかを選び発表しますが、彼は前後半合わせた全編の音声表現に取り組んだ上でのことでした。さてその結果ですが、まず音声表現については、子音は十分な息と強さを伴っていましたし、内容表現の面でも初級生のレベルとしては十分すぎるものでした。暗記については、途中でつかえることもなく、手元のテキストを見ずに発表をやり遂げました。つまり、ほとんど完璧だったのです。
 
普通であれば、暗記の件を含めて、賞賛の言葉以外は彼に対して発せられないはずです。ところが未来塾のトレーナーの講評はというと、発表内容そのものはほぼ完璧と認めつつ、原稿の暗記については再考を促す、すなわち「暗記をお奨めしない」方向でのコメントが出ました。
 
わたくしなりに、今回の少し長いテーマ「なぜ未来塾のスピーチ訓練では原稿の暗記をめないか?」に回答を試みてみました。それは取りも直さず、未来塾のスピーチ訓練の目的を考えることに直結します。この訓練の主眼は、課題文であるスピーチの内容を各受講生が自分なりに解釈し、それを自らの音声で最も効果的に聞き手(聴衆)へ表現(アピール)できるように、とことん考え発表の直前まで検討し、その結果を発表の場で出し切ることにあります。
 
従って、課題文を暗記する間や余裕は本来なく、もし多少でも余力があれば、自分の音声表現に完璧を期すためにそれを使うべきなのです。スピーチを表現している最中も、暗記した内容を思いだすことに注力するよりも、(多少くどくなりますが)自らが発している音声を常に客観的に捉え、100%の成果をあげる方向に力を活用することが、訓練の目的にあいます。
 
発表後、前述の受講生は自分の席に戻るや、「あー疲れた」と声を発しました。3分以上のプレゼンテーションで本当に疲れたのでしょう。でもそれに対してわたくしは、半分冗談交じりで苦言を呈しました。それは、スピーチが終わったところから、呼びかけた行動が開始されるのに、終了と同時に呼びかけ人がぶっ倒れては困る、と述べたのです。
 
生前中津先生は「何時いかなる場合でも、(ご自分の人生の中で)、生き延びるための余力を常に持つように心がけてきた」といった趣旨のことばをどこかで述べておられました。それが、わたくしの苦言の背景にあったことに後で気がつきました。たとえ僅かでも余力をもって発表を終えることも、必要な訓練の一環と考えます。 
 
(*) Dictator:Charlie Chaplin 監督・主演の映画The Great Dictator「独裁者」(制作1940年)の最終場面で演じられるスピ-チ。
I Have A Dream:Martin Luther King Jr.牧師によるワシントンDCでのスピ-チ(1963年8月28日全米各地から集まった大聴衆を前に演じられた)

<ナガちゃん>