会話は教えない未来塾

投稿日:2011年1月28日

コースに会話のレッスンは一切入っていません。アルファベット26文字の音の作り方を改めて学び、その後に文字の連結(単語)、単語の連結(文)、文のまとまり(詩)、スピーチへと進みます。初級コースの最後には課題スピーチ(チャップリンの映画『独裁者』の最後に行われるスピーチを題材に、自分なりの音声表現をするのが課題です)の発表をします。
 
当塾のレッスンが最も向いているのは、英語の発音を一からやり直す、発音に磨きをかける、英語で堂々とプレゼンテーションを行えるようにしたい、このようなニーズへの対応です。もし受講生の主なニーズが日常会話の習得であれば、英会話学校の方をお勧めします。
 
わたしたちが目指すのは、不特定多数の聴衆に対し、自らの考えをスピーチとして提示する際の音の獲得です。日常会話で必要とする息や子音の強さを仮に1とすると、スピーチでは少なくともその3~5倍が要求されます。さらに、音声と同時に、スピーチの中味も明快にできるようロジックを鍛えます。
 
残念ながら当塾では、あまり褒めるということをしません。「息や声が足りないのでもっと出してください」とか、「口が横に開きすぎているので注意してください」といった、否定的なコメントが頻繁に出ます。トレーナーは受講生の意欲を削ごうなどとは全く思っていません。が、目指す到達点から見ると、足りないとの指摘が主にならざるを得ないのです。このようなレッスンは、受講生にとって必ずしも楽しいものではないでしょう。そこで受講の動機が重要になってきます。
 
もし日常会話の習得が主な目的であれば、会話学校の方が手っ取り早いでしょう。スピーチ音の獲得を目指す未来塾のコースに参加されても、「なぜこんなことまでしなければならないの?」となり、途中挫折の危険度が高まります。トレーナー、受講生双方にとって不幸な結末に終わる事態は、避けるのが賢明と言えます。

 <ナガちゃん>

4000人中80人

投稿日:

『英語と運命』(※1)を執筆されていた頃、中津先生(※2)から「4000人中80人は多いのかねぇ、少ないのかねぇ」と何度か尋ねられました。

 

4000人というのは、中津先生が日本で英語を教えた33年間(1965-1999年)で、実際に訓練を受けた人はもちろん、説明会のみで去った人、訓練の途中で去った人も含めて彼女の訓練に関わった人の数です。80人は、訓練に生き残り、多少なりとも成果を得たと思われる人数。これらの数字は、あくまで中津先生自身の印象として、著書『英語と運命』(p334)に挙げられているものです。

 

先の質問に対して、私は、「どうなんでしょうねえ。4000人中80人ということは、50人中1人ですから、それほど少ないとは言えないのではないでしょうか」と漠然と答えるしかなかったのですが、最近、実際にこの数字がそれほど悪くない数字かもしれない、という心強い記述に出会いました。

 

友人に勧められて読んだ、ジャーナリストの上杉隆著『結果を求めない生き方 上杉流脱力仕事術』(※3)。
この本で著者は、「上杉流・好きなことを仕事にするポイント」として
「100人にひとりわかってくれればいい。そんな気持ちでいることが万人の中に埋没せず逆にオリジナリティを出すことになる」(p104)
と書いています。彼自身が、仕事の上で妥協せず、「100人にひとりわかってくれればいい」という気持ちで仕事に取り組んでいることがわかります。

 

上杉氏と中津先生は、考え方や仕事の流儀の点でかなり共通するものがあるなあ、と面白くこの本を読んだのですが、ここではそのことに深入りせず、話を4000人中80人のことに絞ります。

 

中津先生は、「自分の訓練を受けたい人がひとりでもいる限りやる」という気構えを持つ一方で、成果も大事にしました(物見遊山で訓練に参加し続けることは許しませんでした)。お金を儲けるために塾を開いたわけではありませんから、受講生におもねることは一切なく、妥協もありません。先生は「異文化お互い様リスト」(※4)のハード型文化を体現していたのです。

 

こうして訓練を行ってきた結果、100人に1人どころか、50人に1人は成果を得たとすれば、やはり悪い数字とは言えません。特に、この訓練を見学した平泉渉氏(※5)から、日本語と英語を等距離に見て比較することのできる日本人は稀であること(つまり、この方法は日本人には向かないということ)を指摘され、訓練をやめるよう忠告されたにも関わらず、好奇心と反抗心から続けた(※6)結果としてはかなりいい数字とも言えるのではないでしょうか。

 

少なくとも私は、平泉氏の忠告にめげずに中津先生が教えることをやめなかったことに感謝しています。そうでなければ、日本に居ながらにして、納得のいく英語音を身につけることはできなかったに違いないと思うからです。

 
※ 1 『英語と運命』(三五館、2005年発行)
※ 2 未来塾顧問の中津燎子のこと。
※ 3 上杉隆著『結果を求めない生き方 上杉流脱力仕事術』(アスコム、2010年発行)フリージャーナリストの上杉隆が自身の生い立ちや仕事をするうえで大切にしていることなどを紹介している。
※ 4 「異文化お互い様リスト」(『英語と運命』p348に掲載)
※ 5 平泉渉氏は、当時(1974~75年頃)、自民党参議院議員。学校での英語教育は「実用性」を重視すべき、と主張した。それに対して、上智大学教授の渡部昇一氏が「教養」と捉えるべき、と反論し、論争となっていた。
※ 6 『英語と運命』p280~286の記述より。

<ぽんちゃん>

What a Wonderful World

投稿日:2011年1月13日

ご存じLouis Armstrongのヒット曲(1968年)です。多くの日本人が好きなようで、ラジオなどでも未だよくリクエストが寄せられていると聞きます。この題名を初めて耳にしたとき、“What a title!”と感じました。何故か? 理由は、日本人にとってこの原題の発音は大変だからです。
 
まずWが三つあります(Wの単独音としては二つ)。次に、短母音が少なからず入っています。その上最後の部分に、3重子音(rld)が出てきます。この題名を発音してもらうだけで、その人の英語の発音力がほぼわかるぐらいの試金石になるでしょう。
 
ではこの題名を、音声的に少し細かく分析してみます。
Wは日本語の「ワ」では代用がききません。唇の瞬間的な緊張度が全く異なります。英語のWは、まず上下の唇を合わせた上でかなり力を込めて緊張させ、次に歯と唇の裏側との間に息を貯めて、その息で唇を裏側から瞬間的に押し開ける感じで発します。この時母音は一切入りません。WhはWの応用形とも言えますが、口をある程度開いて形を固定させ、その口形を動かさずに息だけを口の外にはき出して作ります。
 
短母音の中で特に注意すべきは、不定冠詞の a で、扱いとしてはWhatの一部として考え処理すべきです。すなわち、Whataのように捉え、息だけで(コンマ何秒の単位で)瞬間的に作ります。Wonderful の o, e, u, 全て短母音と捉えて処理します。この単語全てを通じて、口は殆ど開きません、閉じた状態で連続的に音を繋げます。
 
さてWorldですが、これも「ワールド」として日本語に定着しています。問題は英語で表現するとき、「ワールド」から即座にどう切り替えるかです。WについてはWonderfulで説明しました。WorldはWonderful同様、口は殆ど開きません。rでは十分な舌の巻き上げを、そしてlとdは舌の位置は同じですので、素早く上の歯茎に移動させ、そこを舌の先で押さえ込みます。冒頭のWの勢いを上手に利用します。
 
Wonderful Worldだけでなく、World-wideやWorld War等、Wで始まる単語が2つ、もしくはそれ以上続くことは珍しくありません。でも練習により、どれか一つでもモノにできると、他への応用ができるはずです。“What a thing to do!”などと言わずに、まず口形を作り、舌を動かし発音してみましょう。

<ナガちゃん>