担当しているトレーナー達が、訓練や日常の中で気づいたことを綴っていきます。
初級の訓練は全部で12回(各2時間)ですが、最初の3回で、アルファベット26文字全ての作り方を受講生は学びます。早速、講師の先導の下、一人一個ずつ発音するやり方で、Aから Zまでを回してみます。4回目以降全てのレッスンの冒頭で、「身体ほぐし」と私たちが呼んでいるウォ-ミングアップ体操の後、必ず何回かこのアルファベット回しを行います。
一見易しそうですが、実はたいへんです。息の出し方、口の形の作り方、唇や舌の使い方、全て新たに塾で指導を受けた方法で行います。カタカナでなく、未来塾独自の「増幅法」に基づく発声が求められます。その上で、自分の順番が来たら遅れずに自分の出すべきアルファベット音を発するのは、簡単ではありません。Rの次にSを飛ばしてTが発せられたり、Uの次がWになったり等、珍しくありません。
初級も後半に入ると、最初の頃に比べ、受講生はこのアルファベット回しに慣れてきますが、簡単でないことに変わりありません。英語の本来持つリズムを刻みながら、タイミング良く自分の順番に応じて正しい音を出すこと。作り方が悪く、音のでき具合が悪いと次の人が混乱します。
ひたすら耳を澄ませ、自分の3人位前には息を吸い込み、それをお腹でホ-ルドし順番を待ちます。前の人が出したアルファベットを確認次第、全ての息を使って、その息に声を乗せる感じで、必要な口形、舌・唇の動きを作り、該当のアルファベットを鋭く出します。その鋭さは、まるで鋭利な刃物のようでもあります。参加者が、お互い真剣を使って切り込みの練習を行う、そんな感じです。
いかなる単語もそれを構成する最小単位はアルファベットです。単語が組み合わさって文ができます。したがって、一つの単語でも、どんなに長い文でも、明快な発音をするには、それを構成する個々のアルファベットを明快に発音できることが不可欠となります。「たかがアルファベット回し、されどアルファベット回し」と言えるでしょう。
<ナガちゃん>
三種の神器といえば、どなたもご存じのように、皇位の継承として歴代の天皇が受け継ぐ三つの宝物、鏡・玉・剣です。対比して、未来塾の訓練に絶対欠かせない三つの品物(いわば三種の神器)があります。それは鏡、録音機器、そしてテキストです。以下、鏡と録音機器について説明します。
なぜ鏡と録音機器が必携物なのかといいますと、両者とも事実を把握するための道具として入り用なのです。鏡は訓練中の舌の動きや口形のチェックのため、また録音機器は訓練で出した音の確認と分析に使います。
従って、鏡の場合、ある程度の大きさが必要です。テキストにはサイズとして、「縦20㎝ 横15㎝程度」と書かれています。この程度の大きさがないと、顔半分(口周り)から首の上部ぐらいまでを十分見ることはできません。時々、手鏡やコンパクトの鏡を持ってくる受講生がいますが、サイズが足りないことと、手にもたなければなりませんので、訓練には向きません。机の上に置ける設置型が適しています。
録音機器の方ですが、Tape Recorde、MD、最近流行のIC Recorder、いずれでもかまいません。訓練が一回最低2時間ありますので、それを全て収録できれば結構です。録音し、次回レッスンまでの一週間、できるだけ毎日、最低20分聞き直しをします。舞い上がっていた訓練時の自分の状況を、録音されたレッスンの内容を通して冷静に受け止め分析できるようになると、訓練の成果が目に見えて上がってくるでしょう。
最初に述べたいわゆる「三種の神器」は、それらを保有することが皇位継承にとって欠かせないわけですが、未来塾の三種の神器の方は、保有するだけでは全く足りません。如何にこの三つの道具を活用し訓練成果を上げるかが、最重要課題となります。
<ナガちゃん>
4月10日(土)に未来塾の2010年度の初級コースが始まりました。
今年は、6名方がご参加くださっています。体験レッスンの記事で「ポンちゃん」がお話ししましたように、未来塾は毎年5名以上の参加をもって開講することにしています。これは、未来塾では、個人訓練ではなく集団訓練を行っているからです。
未来塾が集団訓練をしているのは、音を作っていく訓練の中で、毎回録音して頂く自分自身の音を分析することと同時に、トレーナーや他のトレーニーの音をよく聞いて分析することも訓練の大事な要素になっているからです。英語の明快な音を作る、という目的のために、自分の音も、他人の音も「情報」として、冷静に現状を捉え、必要な改善を加えていく。このような訓練をするうちに、明快な英語の音が作れるようになるとともに、リスニングの力もつき、自他を冷静に分析することにも慣れていくことができます。
とはいえ、私も、未来塾の訓練を受け始めたころは、録音した自分の声を聞くのも苦手でしたし、訓練中はどうしても自分の音を作ることのみに意識が集中して、他の人の音を冷静に聞いている余裕もありませんでした。
それでも、徐々にこの訓練方法に慣れてくると、ふっとした拍子に、他人の出す音に対して「今のは息が出ていた」とか、「今度は音がさがっている」とか聞き取れるようになってきました。他人の音が聞き分けられるようになると、不思議と自分の出す音に対しても、割と冷静に聞いて分析ができるようになっていきました。
今回ご参加の6名のトレーニーの方々も、きっと1回目の訓練は何が何だかわからない、というのが正直な感想だったのではないかと思いますが、トレーナーや一緒に参加されている他のトレーニーの方々をも、いい意味で教材にして、「異文化対応のための英語発音訓練」を楽しんで頂けたら嬉しいな、と思います。
日頃使っていない舌や唇の周りの筋肉を使い、息もたくさん出して頂いたので、きっととてもお疲れだったのではないでしょうか。これから約3カ月、大変ですが、明確な目的をおもちのみなさまですから、きっと前向きに訓練に取り組んでくださることでしょう。
<イノモン>
アルファベット26文字の中で、発音される際に最も破裂度が高いのは何かと問われれば、わたしは躊躇無くPを挙げます。未来塾に入る前ですが、テレビで英国のロイヤルシェ-クスピア劇団の演じる劇を見ていたときのこと。演目は憶えていませんが、ある女優がPで始まる台詞を言ったのですが、そのPの破裂の凄さが今でも耳に残っています。その場すべてを支配するような強さが印象的でした。
Pはアルファベット順でAから数えて16番目ですが、塾生にとってはもっと遙かに身近の存在です。それは未来塾の訓練で、文字としても単語としても、最初に取り上げるからです。なぜ最初か?おそらくカタカナ音との違いが鮮明だからだと思います。
さて、Pの原音(*)の作り方ですが、上下の唇を合わせ、強いプレッシャ-をかけます。次に、今ある息を両唇の間から強烈にはき出します。あたかも柿の種のようなものを唇の間に挟み、それを遠くへ飛ばすが如くです。決してカタカナの「プ」では表せません。息がはるかに強く、また子音のみで一切語尾に母音(「ゥ」など)は入らないからです。
出来具合はいかがですか。ともかく強い破裂がPの命です。塾のテキストには、Pで始まる単語が4つ(park, pen, pig, pot)載っていて、これらを使って訓練を進めます。いずれもPの破裂エネルギ-をうまく利用すると、一拍で作りやすい単語ばかりです。
語頭がPの単語で、その破裂で語感が増し、言葉自体が生き生きしてくる代表例に、わたしはPowerを挙げます。破裂の強さは、使われる文脈に応じて調整します。通常の日常会話では「相手をぶっ飛ばす」Pは不要でしょう。しかし、多数の人を前にしたスピーチでは、時には強烈なPを入れると力強さが増し、聴衆に与える印象が大きく違うはずです。
(*)各アルファベットが持っている音のことを未来塾では「原音」と呼んでいます。例えば、Parkは、P、A、R、K、それぞれが持つ原音の組み合せで発音されます。
国連総会と未来塾訓練、この二つは一見何の結びつきもなく見えます。端的に言いますと、未来塾訓練の究極的な目標の場が国連総会なのです。普通の日本人が、万が一、国連総会で代表されるような国際的な場に立つことがあっても、頭の中が真っ白状態にならずに、自らの考えをスピ-チできること。継続的な異文化対応訓練によって、それは可能であるとの認識を私たちは持ちます。
異なった言語、国籍、文化的な背景を超えて、共通の目的をもった場において、日本人としてのidentityを保ちながら、きちんと自らの考えを述べられる、堂々としたプレゼンテ-ションができる。自らの人生において、一度でもそのような機会を経験する確率は、普通の人にとって実際には皆無に近いでしょう。
それでも、自分でそのような場を想定して、塾の訓練に参加し、研鑽を積むことは意義があるはずです。普段から意識的に「もし、自分が国連総会の様な場に立たされたら、何を言おうか?」と想像する、楽しくはありませんか。
チャップリンの「独裁者」に出てくる床屋さんのように、いきなり大勢の聴衆(兵士)の前に出されスピ-チしなければならない、そんな状況を考えてみて下さい。全世界の人に向かって語りかける、ひょっとしたら、そのようなチャンスは意外と貴方の近くにあるのかもしれません。
チャンスが訪れた時に、常日頃から準備ができていればそれ程慌てなくて済むはずです。「有効な訓練によって不可能は可能になる」、改めてそのように主張したいと思います。
<ナガちゃん>