ディベート導入訓練

投稿日:2011年4月30日

今回のタイトル「ディベート導入訓練」のポイントは「導入」にあります。「導入」とは、ディベートに至る道をつける、そのプロセスを大切にするということです。ディベートの試合に強くなるのが目的ではなく、それに必要とされる論の立て方、客観的な情報(証拠)集め等の手法を身につけるのが主眼です。
 
ディベートとは、ご承知の方も多いと思いますが、ある論題(例えば、日本政府は死刑制度を廃止すべし)について、賛成側と反対側に分かれて、一定のルールに基づき論戦し、勝敗を決めるゲームです。
 
未来塾のカリキュラムは、「発音」と「発想」の2本柱からなり、この両面から鍛えて、伝えたい内容を論理的かつ客観的に整理し、それを明快な音声で発信できれば、異文化のバリアを超えての意思疎通が可能であるとの考えに基づいています。ディベート導入訓練は「発想」の面を鍛える具体的な手法として、未来塾が独自に開発しました。
 
具体的なプログラムは、次の通りです。
 
<初級>
1.「発想訓練」
出題者があらかじめ考えている「答え」(例えば、ねこ)を、YESかNOで出題者が答えられる質問を質問者側が発して(例えば、「それは生き物ですか?」のように)、共同作業で正解を探し当てるゲームです。質問者にとっては、質問力向上と情報整理の訓練となります。
 
2.「ニューズレポート」及び「賛成か反対か」
いずれも与えられた新聞記事の内容をまとめ、その概要と自分の所感を発表します。発表時間3分以内。「賛成か反対か」では、テーマに対する自らの立場を明らかにした上で、その理由を述べます。(例えば、消費税率アップに賛成なのか反対なのかとその理由)。概要と所感を明確に分けることが非常に重要です。
 
<中級>
更に3回のレッスンがあり、最後は簡単なディベートの試合(「ミニディベート」と称しています)まで経験します。(中級での訓練内容については、別に改めて紹介したいと思います)
 
初級、中級とも、この導入訓練はすべて日本語で行いますが、その理由については以前のブログ(「日本語で伝えられないなら、英語でも伝えられない」2010年6月19日掲載)で説明していますので、ご参照ください。
 
みなさんが、あるテーマに関してご自分の意見を形成したいとき、まず何が事実かを明確にした上でご自分がどう考えるかを整理すると、意見が作りやすくなります。客観的な証拠集めも的が絞れますので、集めやすくなるでしょう。更には、あなたがご自分の意見を他人に伝える場合に、事実と意見を分けて示せると、聞き手にとってわかりやすく理解度が高まるはずです。
 
ディベート導入訓練によって、受講生が無理なく、できるだけ容易に、論理的な思考方法を身につけ、自らの考えを客観的な裏付け(証拠)とともに口頭で他へ提示できる力をつけられるよう、わたくしたちは訓練プログラムを組んでいます。
 
       

<ナガちゃん>

未来塾10カ条

投稿日:2011年4月13日

訓練用テキストの最初の頁に、この10カ条を掲載しています。正確には「異文化対応のための発音と発想の訓練10カ条」です。いわば何を目指しての訓練かについて、全体目標と具体的な到達点を示すものです。
まず、冒頭のところを引用します。

Ⅰ. 我々は地球市民として、あらゆる異文化の人々と共存してゆくため、よりよいCommunication能力開発を目指す。
II. Communication 能力とは、母国語、外国語を問わず、人間として異質なもの、異なった文化(生き方、考え方)にどう対応するか?という能力のこととする。
III. 母国語、外国語双方を含めての言語能力を開発する具体的到達点として以下の10カ条を定める。

そして、以下が当の10カ条です。

 

1.事実を見て、事実のままに言語化できる。
2.その事実を正確、公平に他へ伝達できる。
3.自分の考えを2分以内でまとめて伝達できる。
4.自分の言いたいことの優先順位が10秒以内で決められる。
5.事実説明と意見表明と感情表現を区別できる。
6.他からの情報や話を、事実と意見と感想に分けて聞く習慣を持つ。
7.自分が事実として知っていることと、単なる知識として知っていることを分けて整理しておく習慣を持つ。
8.他に煩わされないで自分自身が納得する自己像を持つ。
9.冷静、公平な自己アピールができる。
10.自分と直接の関係がなくとも、社会的な事件やトラブルを整理して、正確な情報として伝えることができる。
 
わたくしがこれらの中で一番面白いと思う条項は10番目で、1条から9条までが具体的到達点であるのに対して、これは少し毛色が異なります。
 
わたくしは、この、「自分と直接の関係がなくても、社会的な事件やトラブルを整理して、正確な情報として伝えることができる。」という条項の意味を、次の3点として捉えます。
 
1)オタクになるな!
    常に訓練の大目的を忘れるなかれ。上記ⅠおよびⅡで述べられている全体目標を念頭に置き、発音や発想の技量磨きだけに埋没してはならない。 
 
2)技(ワザ)は活用せよ!
    訓練で極める技(ワザ)は活用してこそ値打ちあり。それには自らの興味や関心の対象をできるだけ広くもつべし。今を生きる者として、社会的な問題から目を背けてはいけない。
 
3) 情報を鵜呑みにするな!
    偏見や伝聞に惑わされないように。自分の目、耳、頭を使って、情報の収集と分析、整理に努め、決して入手した情報を鵜呑みにしないこと。この過程で、訓練成果の真価が問われるのだ。
 
あの3:11の日、夕刻までに海外の取引先数社からわたくしの横浜の事務所へ安否確認を兼ねたお見舞いメールが入りました。帰宅の足を心配しながらも、無事である旨と現況を返信しました。それから1ヶ月、お見舞いのメールを送ってくださった取引先には、日々の仕事のやり取りに加えて、震災の最新状況を適宜ご連絡しています。わたくしにとって、それはこの第10条の実践でもあるのです。

<ナガちゃん>

 

おめでとう、Nさん!

投稿日:2011年4月6日

Nさんは、未来塾の中級コース終了後、トレーナー見習いに進んだが、1年程経った頃、勤務先で土曜日が出勤になってしまい、未来塾での訓練継続を断念された方である。そのNさんがしばらくしてボーカル教室に通い始めたと知らせてきた。今から3年ほど前のことである。
 
私は、理由を尋ねた。
「自分の声を取り戻したいの」と彼女は言った。
「声が出ていないと言われ続けて、自分でもこのままでは嫌だと思って」
彼女は続けて次のようなことを打ち明けた。
「小さい頃、声は普通に出ていた。中学生の時に、国語の授業で当てられた時に、詩を感情を込めて読んだら、教師に『感じ出し過ぎ』と言われて、ショックを受けた。とても恥ずかしかった。それから表現してはいけないんだと思うようになって、声を抑制して平板に出すようになった。気がついたら大きな声を出せなくなっていた。上京してからはアパート暮らしで、大きな声を出せないので、ずっと30年間もそのままだった。」
 
そんな風にNさんは自分の声が小さくて、相手に届きにくい理由を説明した。抑制した声を作り続けて、本来の声を見失ってしまったのかもしれない、と私は思った。未来塾在塾中も、表現がこじんまりとし過ぎていることが課題だった。本人は、声を思い切って出しているつもりでも、トレーナー達からは、本来出るはずの60パーセントぐらいしか出せていないように感じられることが常だった。
 
歌のレッスンに通い始めてから1年程が過ぎ、発表会に出るというので聞きに行った。Nさんはロングドレスを着て、ジャズを2曲歌った。悪くなかったけれど、声はソフトで遠慮がちだった。
「まだ声が出切っていない感じがする。きれいに歌っているけど、物足りない。私はここにいるっていう存在を主張するようなNさんの声が聞きたい」
と私は正直な感想を述べた。
 
そして、発表会から1年半ほど経った、つい最近のこと。久しぶりに喫茶店で会ったNさんは「ついに自分の声が出たの」と言って、今練習しているという歌を録音したものを聞かせてくれた。
イヤホンを通して彼女の歌声を聞いてびっくりした。ちょっとばかりドスがきいて、存在感のある太い声。Nさんの地声、本当の声だと思った。
「すごい声でしょ? 前の声の方が良かったって言う友達もいるのよ」と彼女は苦笑した。
「私はこの声いいと思う。存在感あるもの。どうやって出せたの?」
彼女が何年も取り組みながら出せないでいたことを知る私は聞いた。
 
「わたし、去年の夏頃からずいぶんがんばったの。職場の近くの遊歩道なんかがある広い公園で、朝と夕方、10分くらいずつ一人で発声練習をしたのよ。ファルセットと動物のような声を出すっていう練習。そうしたら、始めて3ヶ月ぐらい経った頃かな。公園を散歩していた知らないおじさんに、『声、通るようになったね』って、言われたのよ。うるさいって言われるんじゃないかとヒヤヒヤしてたので、すごくうれしかった」
「へえ!そのおじさん、練習を聞いてたのねえ。それでもって変化がわかったんだ!」
「そうなの。あれからだんだん声が出るようになって、歌の先生も褒めてくれた。ここまでやる人は少ないって。歌う時だけじゃなく、ずっと、つまり話す時もこの声を出すようにしたらいいって言われてるんだけど、それはまだできないのよね。これからあせらずやってみるつもり。」
それからNさんは、「これが自分の声なのよねぇ。」と愛しげに自分の歌声が録音されたMDレコーダーを見つめた。
 
私は、数年に渡るNさんの自分の声を取り戻す努力に心から敬意を表します。おめでとう、Nさん!

<ぽんちゃん>