担当しているトレーナー達が、訓練や日常の中で気づいたことを綴っていきます。
N で始まる単語には否定的な意味を持つものが少なくありません。No, Never, Negative, None, Nothing, Nonsense,…。発音上、語感としての否定を出すためのポイントは N の粘りです。N の粘りは、舌の先端が上の前歯の付け根を強く押さえて作ります。そのためには舌の根を鍛えて、押す力をつけていく必要があります。毎日の強化訓練が欠かせません。
Nの粘りの強さですが、カタカナの「ヌ」と比較すると、十倍位は強いと言えましょう。未来塾では増幅法といって、意識的に大げさに息と声を出して音作りをしますので、その分カタカナとの違いは際立ちます。舌の先が上の前歯の根元を押す姿をもし横から見たとすると、瞬間的には舌の先は上の前歯の外側に飛び出しているでしょう。その位強く押します。この粘りの点で、N はアルファベット26文字の中で最大です。
Nの発音訓練用としてテキストに載っている単語は、nurse, net, nail, noの4つです。nurse と net で口は殆ど開きません。次の nail と no では、口を少し縦に開いて発音します。いずれも冒頭の N は強いプレッシャーを舌先にかけます。nailの場合、語頭の n と語尾の l は、舌先がほぼ同じ位置にきます。
相手に“No”のメッセージを伝えたいとき、カタカナの「ノウ」ではNの粘りが殆どないため、拒否の意思表示が弱くならざるを得ません。 N の発音を鍛え、必要に応じてはっきりした意思表示ができると、我が身を助けられます。只その時も、単にぶっきらぼうに“No!”と言うだけでは相手の心証を悪くし、喧嘩になるかもしれません。表情はにこやかに、しかし音声は明快に「拒否」を示せると、逆に貴方の評価はぐっと上がるかもしれません。
10月17日(日曜)、中津先生の新刊『声を限りに蝉が哭く』の出版記念茶話会が催されました。場所は大阪狭山市のコミュニティセンター。参加者は全体で40人ほどで、東京の未来塾からは私と二人のトレーナーが参加しました。中津先生を囲んで、同窓会のようなアットホームな雰囲気が終始ありました。
茶話会で行われた講演の冒頭で、先生はご自分の持病や体調について触れられ、あと1年くらいの寿命ではないかと話されました。でも、講演を終えるときの力強い姿勢からは、とてもそうとは思えませんでした。
その講演内容の一部をご紹介します。
― 子供の頃から3つのことを信条にして生きてきた。3つとは、弱いものいじめをしない。卑怯なことはしない。そして嘘をつかないということである。そしてこの3つを他人にも求めてきた。
― これまでいろいろなもの(記録、本)で調べて思ったことは、「日本人は国民を殺す」民族ではないかということである。大戦中のガダルカナルでの戦いが一つの例で、軍人達は兵士である国民が戦地で死ぬとまた兵士として国民を戦地へ送り込んだ。それを繰り返して行った。軍人は国民を殺したのである。これをまた日本人はやるという印象がある。
この同じことを何回もやるという日本人の戦争の仕方は、日本人の英語教育の仕方と同じである。変化、進歩がなく、あけてもくれてもカタカナ(英語)でやっている。新しい物をつかむという行動が日本人にはない。また、知らないもの、自分とは関係が無いものには退いてしまう。対処方法を自分たちで作らないで全て、断ち切れてしまう。
― 国語の時間に議論に耐える日本語を教えた方がいい。シカゴに居て、分かったことは、勝負はスピーチである。スピーチは変化をおこす。西洋、ロシアの教育はまず、言葉磨きである。言葉磨きがコミュニケーションになる。アメリカ留学の際、どんなことをやるか知らずに参加した「オーラル(Oral)」という授業で、隣に座っている、話したこともない人の紹介をやらされた。
― 日本語は流しそうめんのようである。「~だけれども」や「~で」などで文がだらだらと続き、言い切らない。また、事実を事実として捉え、伝える日本語が肝要なのに国語の授業ではそれを教育していない。
― どんなに短くても、音(発音)には必ず、意味がある。この発音の実態をアメリカの黒人の教会で男女が「サマータイム」を歌うのをきいて学んだ。とても美しかった。
中津先生は今でも月に二回、スピーチの音声表現を元気に教えていらっしゃるそうです。そんな行動や講演の中で見られる中津先生の姿勢、主張は、先生が東京でレッスンをされていた頃(12年くらい前)と全く変わらず、お年を召されて、体力が衰えても全然ぶれていないと感服しました。
今回の茶話会に参加して、私は中津先生から元気をもらいました。今後も、トレーナーとして未来塾のレッスンを頑張りたいと思っています。
みなさんの英語学習目的は各人それぞれ異なると思いますが、一つの典型的なケースは次のようなものではないでしょうか。
「相手に通じる発音で、自分の言いたいことを誤解なく伝えたい」
これはまさしく中級コース終了時点で、各受講生が到達して欲しい(とトレーナー側が願っている)具体的なレベルなのです。
中級コース最後の5コマ(12時間程)で、受講生は英語による自作文(紹介文とも呼ばれます)に挑戦します。自宅等で準備に費やす時間を入れると、少なくとも30時間位かけて取り組む訓練になります。
自作文(紹介文)は、各受講生が書き下ろしたオリジナル作品で、テーマは「わたしの大好きなもの」もしくは「わたしの大嫌いなもの」の紹介です。例えば、「わたしは猫が大好き」、「わたしはゴキブリが大嫌い」、「わたしはバスケットボールの試合を見るのがとても好きだ」等。好みの作曲家や画家の特定の作品をあげる人もいます。
原稿の長さの目安は、字数で300~400 words位、発表時間で3~4分程度です。
作成に当たっての主な指針や注意点は次の通りです。
・テーマを明確にして、一貫させる。
・中学3年生程度の単語を使う。難解な単語を避ける。
・関係代名詞を避ける。
大切なのは主張が明確であり、聞き手がなるほどと合点がいく説明や証拠が示されていることです。もう一つ忘れてならないことは、発表が口頭で行われ、しかも聞き手は原稿を一切もたずに発表者の音声だけを頼りに内容を理解するという点です。聞いてわかりやすい単語を使うよう勧める所以です。
この自作文作りの道は、実は未だ進化の過程にあり確立していません。トレーナーと受講生双方が、試行錯誤で進む共同作業なのです。でもそれだからこそ、作品ができあがり、受講生の方がそれなりの発表をされたとき、わたくしたちトレーナーの喜びは、受講生ご本人にまさるとも劣らず大きいのです。中級をやり切ってよかったね、と思わず声をかけたくなる瞬間の訪れでもあります。
<ナガちゃん>
未来塾の初級コースでアルファベット26文字の習得が終わると、いよいよAからZまで参加者全員が入って、一人一文字ずつ順番に発音していくアルファベット回しを行います。できるだけテンポ良く、間違いなく回せるか否か、参加者の共同責任となります。
Aから数えて22番目の文字がVです。まず音の作り方について。
「上の歯で下唇をおさえたまま[ヴ]と呼吸で破裂した濁った音。下唇を硬くしてピーンとはらす。」(未来塾テキストより引用)。
レッスンでは、最初にこの[ヴ]の部分だけを取り上げて練習します。一切母音は入りません、子音のみです。息が続く限り[ヴ]を出し続けます。
[ヴ]が出せたら、Vの後半に当たる[ィ]を付け加えます。息と声の配分は、全体を100とすると、[ヴ]に80、[ィ]に残り20です。音は[ヴ] から[ィ]に向かって、丁度Vの形のように、真下に落とします。この間の要領について、テキストでは次のように解説しています。
「[ヴ]から[ィ]は呼吸で離れ(*)、少し唇が動く程度。開かない。」
*「呼吸で離れ」とは、硬くした下唇をおさえた上の歯は、出した強い息で自然に離れるようにすることが大切で、意識的に離さないことの意。
このコラムのタイトルである「ダメV」とは、いわゆる日本語でVを表現する場合の「ブイ」に近い音のことで、原因は最初の[ヴ]から次の[ィ]に即座に連結できないため起きると考えられます。冒頭に述べたアルファベット回しで、Aから順調に進み、息も声もなかなかよく出ている、リズムも悪くないと思っていると、Vのところで「ブイ」が出て調子が狂うことがよくあります。
26文字完結まであと数歩のところで調子が狂うと、とても残念な気分になります。しかし考えようによっては、これが音の面での異文化対応訓練なのだと思います。日本語では「ブイ」OK、でも英語になったらV [ヴィ]にさっと切り替える、それが必要なのだと思います。
<ナガちゃん>