担当しているトレーナー達が、訓練や日常の中で気づいたことを綴っていきます。
口輪筋とは聞きなれない言葉だと思います。口周りの筋肉で発音・発声に欠かせないものとご理解ください。両唇の周辺だけでなく、顎下から首の前部分にかけての筋肉です。初級コースの最初から取り組む一つに、舌とこの口輪筋の強化があります。
発音訓練の基本中の基本であるアルファベットの音作りでは、26文字を便宜上5つのグループに分けて学びます。一番目が「主として、唇と息で作る音」で、B、P、M、W(*)を取り上げます。これらのいずれも上下の唇を「破裂させる」と表現するくらい強くプレッシャーをかけて作りますが、そのためには唇の周辺筋肉だけではなく、首の特に前半分の筋肉も筋張って硬くなる位の力が入らないと、十分なプレッシャーがかけられません。すなわち口輪筋の強化が欠かせない所以です。
鍛えた口輪筋による破裂がないと、本来の英語音の範疇に入らない、いわゆるカタカナで通常表記される日本語の音になってしまいます。その結果、英語としてはリズムが崩れると同時に語感が伴わず、聞き手を引き付けられる音声を有したスピーチやプレゼンテーションになりません。Powerが力不足の「パワー」になり、血肉の通った意思のあるMenが「麺」と化し、そしてお水が欲しい時にも破裂のWがないと相手に伝わらず「Water」が手に入りません。
ところが有難いのが訓練の成果です。初日のレッスンでは要求される破裂音の3分の1も出せなかった受講生が、わたくしたちが「基本運動」と呼んでいる日々の肉体練習を毎日行い、その上で初級12回の訓練に参加することで、ほぼ確実にBやPの破裂度を増して行きます。日本語の音だけでは全く気付かなかった本来の英語音に目覚め、自らの口輪筋や舌の力を鍛えて通じる英語音を作っていく姿は、生きている自分自身の再発見であるといっても過言でないとわたくしは思うのです。
(*)Wがこの「唇と息で作る音」のグループに入ることに疑問を持たれる向きもあるかもしれません。ここではWが実際の単語の中に入った時の音(「原音」と未来塾では呼んでいます)、例えばWaterのW、について述べています。以下のブログを参照ください。
「事実は何か?」その把握が未来塾訓練の主目的だとしたら驚かれますか? でも、一年ほど前のブログ(*1)でご紹介した訓練目的10カ条のうち、5つは事実に関わるものです。曰く「事実の言語化」、「事実の正確かつ公平な他への伝達」等。「事実と意見を分ける」については、このタイトルで単独のブログ(*2)として取り上げましたので、憶えていらっしゃる方もおいででしょう。
当塾の訓練の柱は英語の「発音」と「発想」です。これら両面から鍛えて異文化の壁を乗り越え、Communicationをスムーズに行えることを目指します。事実の把握はそのどちらにおいても重要視されます。まず「発音」面では、例えば鏡を利用した口形の確認の際、自分の口が横に広がり過ぎていないか等を、一つの事実として把握します。「発想」面でも、最初に行うYes-Noゲームでは、出題者に対して「それは・・・ですか?」といった質問を発して事実確認をしていきます。
なぜこれ程「事実の把握」が訓練で求められるのでしょうか。それは他人(異文化)とのCommunicationに当たっては、まず拠り所となるのは事実そのものだからではないでしょうか。事実は何かについて認識しあい、合意ができれば、その共通認識を基に次へ進めます。どうすべきかについて検討開始が可能です。
今日本ではいわゆる原発問題で揺れています。「原発の全面的廃止」か「再開を認める」か。また、自分たちの住むところで「瓦礫処理を受け入れる」か「拒否する」か。昨年世界中で注目を集めた日本人の「絆」も今や揺るぎ始めている感があります。わたくしは日本人同士がこの先へ進み解決策を見いだせるかどうか、そのヒントは冷静な「事実の把握」にあるのではないかと思っています。
少し英語の発音と発想の訓練から外れたと感じられる向きがあるかもしれません。でも、訓練目的10カ条の前文には次の文言を掲げています。少し長いですが引用します。
「我々は地球市民として、あらゆる異文化の人々と共存していくために、よりよいCommunication能力開発を目指す。Communication能力とは、母国語、外国語を問わず、人間として異質なもの、異なった文化(生き方、考え方)にどう対応するか?という能力のこととする。」(下線は筆者)
日本人同士であるか外国人との交渉事であるかに関係なく、事実は何かを把握することが(多少くどくなりますが)異質を乗り越えたCommunicationを成り立たせる第一歩であるという認識がとても大切なことになるのです。
*1 「未来塾10カ条」(2011.4.13掲載)参照