担当しているトレーナー達が、訓練や日常の中で気づいたことを綴っていきます。
突然ですが、戸籍ってご存知ですよね? そうです。あの「戸籍謄本」の戸籍です。でも、「音の戸籍」って一体何だ?と思われた方も多いと思います。けれどもこれは、未来塾の発音訓練にとってとても重要な概念のひとつなのです。
20年近く前に未来塾に入るまでは、私は英語の発音といえば、ネイティブの発音を録音したテープなどを聞いて真似していました。当時は今ほどたくさんの音声教材があるわけではなく、そのような教材のない文章を読むときなどは、辞書にのっている発音記号を頼りに発音したりしていました。
たとえば、satisfaction。辞書を引けば、発音は、[sæ`tisfæ'kʃn] などと表記されています。これを見て、私は日本語のサ(sa)、ス(su)、セ(se)、ソ(so)を発音するときの子音の部分である“s”と「アとエの間のような音」をつなげ、同様にタ(ta)、テ(te)、ト(to)の“t”と「イ」をつなげ・・・と「発音記号」を頼りに音を出していました。自分ではそれで、英語の発音をしているつもりでした。けれども、「発音記号どおり」に発音しているにもかかわらず、どう聞いてもネイティブの人の発音とは違う、ということに気づいていました。それでも、なぜなのかがずっとわかりませんでした。
実は、違うのは当然のことで、私が“s”と思って発音していたのは、英語の“s”ではなく、日本語の“s”だったのです。
未来塾では発音訓練をするのに発音記号は一切使いません。初級では、まずアルファベットを使って英語の「原音」(それぞれの文字が単語や文章の中で表す音)をひとつひとつつくっていきます。先ほどの単語でいえば、最初の文字“s”の原音は確かに、日本語のサ行の「子音」に似ているかも知れませんが、英語の“s”として聞き手に通用するには、日本語の音では到底間に合いません。英語の場合、使う息の量、そしてインパクトが、私の個人的な印象で、日本語の3倍から5倍は強いのです。そのため、訓練では息をたっぷり吸って、メガフォン型口形を作り、一気に鋭い“s”の音を出していきます。
このような練習をそれこそ、何百回、何千回としていくうちに、“s”の文字を見ると(あるいは、“s”の音を出そうと思えば)、自然に必要な口形が作れ、必要な量の息で、英語の“s”として通じる発音ができるようになります。このようになったとき、未来塾では、“s”の「音の戸籍ができる」と言っています。
英語で使われる音すべてに「戸籍」をつくれば、辞書の発音記号も本当の意味で利用することができ、ネイティブの「真似」は必要ないというわけです。
新幹線などではかなり以前から車内の英語放送がありましたが、在来線でもここ十年程の間に英語の放送が一般化してきたように感じます。情報提供のサ-ビスが充実すること自体は歓迎すべきと思いますが、只その中身について、特に音声表現の訓練を経て耳が肥えて来た者にとって、発音上やはり気になる点が多々あります。よく家内からは逆にたしなめられることが多いのですが、以下3点に絞り不満点を述べます。
(1) 早口であること
(2) 駅名をわざと日本語口調でいうこと
(3) アナウンスの途中で節(フシ)が入ること
ここで一つお断りしておくことがあります。関係筋に確認したわけでなく、従ってわたくしの錯誤である場合もあり得ること、またここでの不満は東京・横浜近辺の在来線の車内放送の英語に限ること、そして大前提として、(私の耳での判断によると)日英両方のアナウンスを同一人(日本人)が行っている(と聞こえる)実例についてのコメントになります。
まず(1)について。早口に言わんが為、口が回らない状況が生じています。恐らく早く言うのが良いこと、早口でまくし立てるのが流暢という意識が働いているのではと思います。正しく分かりやすく情報を提供するのが目的なので、ゆっくり時間をかけて言って全く差し支えなく、むしろそれが目的にかなった言い方だと思うのですが。
(2)について。全ての場合ではありませんが、駅名の所にくると途端にアクセントを日本語式に置き換えるため、英語としてのリズムが狂ってしまうことです。日本語式の言い方であれば、日本人の乗客には分かりやすいのですが、英語放送なのでやはり全体として英語のリズムに乗せないと変、というのがわたくしの感想です。また、日本語に慣れていない外国人にとっては、いきなり固有名詞のところだけ日本語で言われても、捉えにくいと思いますし、発音したくても再生が難しいでしょう。
(3)について。乗り換え情報提供の際に、路線を言う時の“ … Line”の音声に微妙に変な節がついたり、上昇したりすることです。理由は、日本人としての体内リズムからくるものと思われます。英語の文章を読んでいるとき、英語の特徴である強弱を、音のアップダウンで対処しようとすることと共通しています。同じ現象が“The next station will be ….”と言ったときに、will be の辺りにも起きます。単に駅名だけを言うのに、変に科(しな)を作っているような発声になるのです。かつて中津塾長は、このような現象に対して「ゾロびく」といった表現を使っていたことを思い出します。
幸いにもわたくしは、毎日の通勤では電車に乗るものの数駅だけで、更にわたくしの乗る区間では英語の放送がありません。もし毎日朝晩、それもすし詰めの車内で繰り返し上記のような放送を耳にしなければならないとしたら、思うだに苦痛です。かなり多くの方が心の耳栓をしているか、あるいは日本人が得意な聞き流しの術を使って凌いでおられるのではないかと、勝手に想像している次第です。
Dual Lifeとは文字通り訳せば「二重生活」となりますが、ここでは「異なった文化間を自由に行き来して生活できる」という意味で使っています。異文化対応(Cross-Cultural Awareness)が未来塾講座の主目的ですが、その理想的な成果としてDual Lifeがあるわけです。
日本で生まれ育ち成人した者が、真に異文化間をDual に生きるのは至難の業です。自国の文化と母語を基に置きながら、仕事などで必要に応じて異文化の壁を乗り越え相手と折衝し、解決策を見つけて行くのがDual Lifeの一形態です。また、留学や赴任で外国に暮らし、諸状況に対応しながら目的を果たすのも、もう一つ別の形態です。
当塾のテキストに「異文化お互い様リスト」(*)が載っています。元塾長の中津燎子が作成したもので、世界を大きくソフト型文化とハード型文化に区分けして比較し、両者の文化的相違を明らかにしようとしています。日本とかタイはソフト型文化に属し、欧米諸国をはじめその他多くの国や地域がハード型文化に属するとしています。
更に、ソフト型文化では「生き方」として重要なのは、「主張よりも妥協」であり、「対立は喧嘩と考え相手に同化するのが常識」であるのに対して、ハード型文化では「主張が常識」で「対立は喧嘩ではない」。また、「言語」に関しては、前者では「感性重視」「音声軽視」であるのに対して、後者では「言語重視」「音声重視」であるとしています。
日本人の控えめな態度もソフト型文化では評価されても、「主張が常識」で「言語重視」「音声重視」のハード型文化から見ると、同じようには評価が得られず、むしろ主張するものを持っていないと見られる恐れがあります。重要なのは、異文化との折衝に当たっては、このような文化的な差異の存在を前もって十分に認識しておくことです。
我が未来塾では、音声と発想の両面から文化的な相違に気づき、それを乗り越えていくための技を習得して磨きます。その技とは、明快な発音と明快な論理に支えられた相手に通じる自己表現力(主張&説明力)と言えるでしょう。目指すことは、繰り返しになりますが、その訓練によって各人が自分の生活や仕事等を通してDual に生きていけるようにしようというものです。
(*)「異文化お互い様リスト」は中津燎子著『英語と運命』 三五館 P.348-349にも掲載。
以前は「総括」と呼んでいました。初級と中級の各コース終了時に行うもので、1999年に自主運営になってからは、分かりやすく「訓練成果のまとめ」と呼んでいます。
わたくしは1988年10月に入塾。翌年7月末の合宿(一泊二日)まで約10ヶ月間、月3~4回週末に訓練を受け、夏休みを経て9月初めに総括を行い、初級を終了しました。
総括のやり方は、今の「訓練成果のまとめ」と同様、一人3分の口頭発表でした。網羅すべき主な事項は次の3つで、これも現在まで受け継がれています。
(1)受講目的は何であったか。
(2)達成できたこととできなかったこと、その理由は何か。直面した困難点とそれにどう対処したか、その結果は。
(3)これからどうするか。
わたくしは初級と中級の各終了時に行った総括について、具体的な内容は憶えていませんが、総括についての肯定的な感情が自分の中に残っています。おそらく自分の人生のある時期に、あることをやり遂げたという実感がそうさせるのだと思います。また、総括が単なる反省ではないことにも関連しているでしょう。
総括の内容ですが、(1)と(2)で、受講者は自分の体験を一つの事実として提示します。具体的な証拠をつけ、客観的に成果を述べる必要があります。出来なかったことも同様です。(3)についても、単なる希望や願望では不足で、自分の将来計画とはいえ、聞き手が納得できる中身が求められます。
訓練成果の如何を問わず総括(まとめ)は可能ですが、肯定的な感情と共に自分の中に残すには、あるところまでやり切ることが前提条件となるでしょう。初心貫徹、自らの動機を大切に、継続的に訓練を積み重ね、少しでも多くの受講生の方に、自らが納得できる総括(まとめ)を行う喜びを味わって欲しいと思います。
アルファベット26文字の最後から2番目の文字“y”。みなさんは、この文字が表わす音をどのように発音していますか? たとえば、“young”や“yacht”。“y”ではじまる単語はおそらくカタカナのヤ行で済ませている方が多いのではないでしょうか?「ヤング」、「ヨット」?
でも、ちょっと待ってください。“year”はどう発音されていますか? 語頭に“y”のない“ear”と区別して発音できていますか?
まあ、たとえ同じに発音しても、この二つの単語が取り違えられて誤解を招くような文脈に使われることはあまりなさそうですので、これに関してはそう大きな問題には思えませんね。けれども、“y”の文字が表わす音をきちんと発音できないと困ることがあるのです。それは、“y”は重要な代名詞“you”の語頭の音だからです。“you”の語頭の子音をきちんと出さないと、コミュニケーションの相手を表す単語が、一人の人格を表す音として立ち上がってきません。
では、“y”が表わす音(未来塾では「yの原音」と呼んでいます)はどうやって作るのでしょう? まず、メガフォン型口形(*)を作ります。息を十分に吸って、口形を保ったまま口の中の空間を息と声を同時に勢いよくひねり出すようにして、音を作ります。カタカナの「ユ」とは似て非なる音です。
新しいことに挑戦しようとしている相手に、“Yes, you can.”という時に、“yes”と“you”にこの“y”の音をしっかり発音して言えば、「大丈夫、あなたならきっとできるよ」と、力強く励ましの気持ちを伝えることができるでしょう。
(*)メガフォン型口形とは、未来塾の発音訓練で使う基本的な口の形で、形状は四角です。口形をつくる上下の唇全体に力が入っていますが、特に左右両脇の引き締めが強いです。メガフォン(拡声器)を正面から見たときの(四角い)形に似ているので、メガフォン型口形と呼びます。(2010年6月26日付掲載<ナガちゃん>の投稿より抜粋)