担当しているトレーナー達が、訓練や日常の中で気づいたことを綴っていきます。
『英語と運命』(※1)を執筆されていた頃、中津先生(※2)から「4000人中80人は多いのかねぇ、少ないのかねぇ」と何度か尋ねられました。
4000人というのは、中津先生が日本で英語を教えた33年間(1965-1999年)で、実際に訓練を受けた人はもちろん、説明会のみで去った人、訓練の途中で去った人も含めて彼女の訓練に関わった人の数です。80人は、訓練に生き残り、多少なりとも成果を得たと思われる人数。これらの数字は、あくまで中津先生自身の印象として、著書『英語と運命』(p334)に挙げられているものです。
先の質問に対して、私は、「どうなんでしょうねえ。4000人中80人ということは、50人中1人ですから、それほど少ないとは言えないのではないでしょうか」と漠然と答えるしかなかったのですが、最近、実際にこの数字がそれほど悪くない数字かもしれない、という心強い記述に出会いました。
友人に勧められて読んだ、ジャーナリストの上杉隆著『結果を求めない生き方 上杉流脱力仕事術』(※3)。
この本で著者は、「上杉流・好きなことを仕事にするポイント」として
「100人にひとりわかってくれればいい。そんな気持ちでいることが万人の中に埋没せず逆にオリジナリティを出すことになる」(p104)
と書いています。彼自身が、仕事の上で妥協せず、「100人にひとりわかってくれればいい」という気持ちで仕事に取り組んでいることがわかります。
上杉氏と中津先生は、考え方や仕事の流儀の点でかなり共通するものがあるなあ、と面白くこの本を読んだのですが、ここではそのことに深入りせず、話を4000人中80人のことに絞ります。
中津先生は、「自分の訓練を受けたい人がひとりでもいる限りやる」という気構えを持つ一方で、成果も大事にしました(物見遊山で訓練に参加し続けることは許しませんでした)。お金を儲けるために塾を開いたわけではありませんから、受講生におもねることは一切なく、妥協もありません。先生は「異文化お互い様リスト」(※4)のハード型文化を体現していたのです。
こうして訓練を行ってきた結果、100人に1人どころか、50人に1人は成果を得たとすれば、やはり悪い数字とは言えません。特に、この訓練を見学した平泉渉氏(※5)から、日本語と英語を等距離に見て比較することのできる日本人は稀であること(つまり、この方法は日本人には向かないということ)を指摘され、訓練をやめるよう忠告されたにも関わらず、好奇心と反抗心から続けた(※6)結果としてはかなりいい数字とも言えるのではないでしょうか。
少なくとも私は、平泉氏の忠告にめげずに中津先生が教えることをやめなかったことに感謝しています。そうでなければ、日本に居ながらにして、納得のいく英語音を身につけることはできなかったに違いないと思うからです。
※ 1 『英語と運命』(三五館、2005年発行)
※ 2 未来塾顧問の中津燎子のこと。
※ 3 上杉隆著『結果を求めない生き方 上杉流脱力仕事術』(アスコム、2010年発行)フリージャーナリストの上杉隆が自身の生い立ちや仕事をするうえで大切にしていることなどを紹介している。
※ 4 「異文化お互い様リスト」(『英語と運命』p348に掲載)
※ 5 平泉渉氏は、当時(1974~75年頃)、自民党参議院議員。学校での英語教育は「実用性」を重視すべき、と主張した。それに対して、上智大学教授の渡部昇一氏が「教養」と捉えるべき、と反論し、論争となっていた。
※ 6 『英語と運命』p280~286の記述より。