ディベート導入訓練と中津先生

投稿日:2013年10月15日

未来塾には、日本語で行う「ディベート導入訓練」というプログラムがあります。受講生が日本語でディベートの試合が出来るように、段階的に組まれたシリーズの訓練です。先月末のレッスンは、そのシリーズの5回目にあたり、「立論」というものを中級生に作って頂きました。

「立論」とは、ディベートの試合で肯定側、否定側のそれぞれの主張の柱となるスピーチです。レッスンでは中級生に、あるテーマに関する新聞記事を読んで頂き、20分間の準備時間内で新聞記事の内容を参考に立論を作って、口頭発表していただきました。今後、もう一度「立論」訓練を行ったあとに、日本語のディベートの試合が予定されています。

毎年この時期になると、ディベートにまつわる中津燎子先生の発言やコメントを思い出します。一語一句、正確には思い出せませんが、次のような内容のことをレッスンや研修でおっしゃっていました。(以下「  」は中津先生の発言)

「英語の世界(英語によるコミュニケーション)はまさにディベート!!」

中津先生が米国で生活をされた体験からおっしゃったことだと思います。ディベートは主張と主張がぶつかり合って、議論が展開します。私はディベートの試合をして、それがどういうことか、体験しました。察し合い、対立を避ける日本語の世界とは違い、正直言って“しんどい”ことでした。

「英語はWHYとBECAUSEがセットということが、大前提にある」

英語を話す人々は「なぜ?」と質問すること、そしてその質問に対して「なぜならば」と理由を述べるのは当然のようです。それを実感したのは、私がイギリス人の弁護士のジュニアセクレタリーをしていた時のことです。当の弁護士がなにかにつけて、「WHY?」と質問してくることを面倒に感じ、見ていれば分かるはずと思いこみ、質問にまともに答えていませんでした。しかし、中津先生のコメント通りに「BECAUSE, 〜」と理由を述べたら、その後、彼は私を以前よりも信頼してくれるようになったのです。そのWHYとBECAUSEのやりとりがディベートにはあります。

「男は黙ってサッポロビールでは21世紀には生き残れない」

相手の主張に対して反論しないこと、つまり沈黙は同意したとみなされ、ディベートの試合では負けにつながります。異文化が行き交う21世紀の地球上では主張や反論をしていかないと存在を認めてもらえないということです。「男は黙ってサッポロビール」は40年位前のビール会社のコマーシャルのキャッチコピーです。このように、中津先生はしばしば、流行りのフレーズなどを取り入れて、活き活きとご自身の社会分析や見通しを表現されていました。

中津先生は、日本人が議論できる能力を培う必要がある、と考え、1980年代後半に、中級コースのカリキュラムにディベートを取り入れました。当時の受講生は、招聘された専門のコーチのもとでディベートを学ぶ一方で、日本語ディベート導入訓練のプログラムを開発しました。目的はディベートの試合に勝つためではありません。日本語の文化をもつ私たちが、異なった文化をもった人々に説得力のある話ができ、かつ対応できるようにするためです。

中津先生ご自身が受講生にディベートを教えたわけではありませんが、受講生が力を合わせてディベート導入訓練のプログラムをつくるほどの刺激が先生の言葉にはありました。

天国にいらっしゃるであろう中津先生の「21世紀のグローバルな世界に生き残りたいのなら、しっかりやりなさい!!」という声が聞こえそうです。

<オサリン>