日本式流暢英語が通じないのは?【中津燎子のエッセイ】

日本観察日記

”Yes”と”Yeah”

この4,5年いつも気になっていることなのですが、日本人の方々で英会話の最中に”Yes”と言うべき所を、”Yeah (ヤア)” という人の余りの多さにびっくりします。
同じ肯定語でもYesとYeahは違います。
Yesは普通の「はい、そうです」。発音によってはいくらでも丁寧に言える言葉ですが、Yeahというのは、「うん」とか「フン」というぐらいの気安い言葉で、身内同士、それも兄弟のような対等の立場にいる人間同士がお互いに気楽に言い合う肯定語です。初対面同士の成人はほとんど使わないし、先生と生徒、上司と部下などの関係でも使いません。つまり、YesとYeahは使うときはハッキリとした時と場所と相手によって使い分ける言葉なんですね。英米人の両親は真っ先に2,3歳の子供に教え、しっかりと言い分けることをしつけます。特に中流以上の家庭ではそうですが、日本でも普通の家庭では、「はい」と言うべき時を、子供によくしつけているんではないでしょうか。

2年ほど前、あるシンポジウムに参加したときに、たまたま隣にアメリカ人の大学の先生がおられたので、早速伺ってみたんですよ。
「私が30年前にアメリカにいたとき、Yes とYeahの使い分けをきっちり仕込まれたんですが、今のアメリカはどうなっていますか?どっちでもいいと若い人たちに任せてあるんでしょうか?」
と訊いたら、40代半ばの彼はキッとなって、
「いやいや、とんでもない。昔も今もその躾はちゃんとやられています。若者たちはYesというべき場所と相手をよく知っています。しかし、日本の若者は知らないみたいですね。私は今、日本の大学で教えているんですが、朝から晩までYesと言うように、しつけている真っ最中なんですよ。」
と笑っていました。その後、二人で大まじめに考えたんですよ。一体どこの誰が日本中にYeahだけを教え込んだのかな?ってね。

そして気づいたのは、どうも日本国中に無数に存在している英会話学校の外国人教師たちではないだろうか?ということでした。
私は早速、大阪に戻って、友人の一人であるアメリカ人の英会話の先生に向かって訊いてみたんです。
「なぜ、英会話のレッスンでYesとYeahの使い分けをちゃんと教えないの?自分の子供だったら教えるでしょうに!!」
30代の彼はウーンとうなって
「だけどさァ、日本人の生徒たちはほとんど、それどころではないぐらい緊張してコチコチになっていて声も出ないんだよ。教師としては先ずその緊張を解きほぐすのが先決でね。冗談を飛ばして笑わせたり、色々やって親しくなってやっと何とか声を出してもらうんだけど、その頃には当然、お互いにYesよりYeah!という気易い関係になっちゃってさ。...とにかく、コチコチのセメント人間より、Yeahでも何でも言ってくれればありがたいよ。」

私は「なるほど」と納得はしましたが、それでもここにいらっしゃる若い皆さんには、YesとYeahの使い分けを正しく身につけて下さることをお願いしたいのです。その方が、皆さんご自身のためだと思いますのでね。

<金沢市での講演(1999/8/3)より>